あたらしい朝
                
                  草野 梓 (39) 岡山市北区

 午前2時45分、軽い腹痛で目が覚めた。いよいよだ。これまで「明日はお兄ちゃんの運動会だからもう少し待ってね」とか「今日はお姉ちゃんの遠足だから」と予定日が近づくにつれ、お腹に言いきかせてきた。

 予定日から一夜、もういいよ、出ておいで・・・。

 都合のいいものである。

 家族を起こさぬよう、そおっと布団から抜け出し、助産師さんに電話する。陣痛がくるたびに休んで合間に家事をこなしていく。

 そうこうしているうちに助産師さんが家に到着。手際よく道具が並べられ、いつものリビングは分娩室に様変わりした。

 朝食がととのい、娘の幼稚園のお弁当が出来上がった。ええっと、あとは・・・そう、赤ちゃんを待つのみである。すると、タイミングをはかるように、激しい陣痛がやってきた。3人目とは言え、陣痛に免疫などない。

 意識が遠のくような中、いろんな人の笑顔が目に浮かんできた。

 朝のお散歩で知り合ったご近所の方、ラジオ体操のみなさん・・・。いま何ヶ月なの?出産がんばって!よーし、あともうひとがんばりで赤ちゃんに会える・・・。

 夫が背中をさすり、ねぼけまなこだった2人の兄妹が呆然と見守る中、おひさまと一緒にやわらかな産声が上がった。

 喜びと安堵につつまれる中、7歳の息子が赤ちゃんと抱っこし、肩をふるわせてつぶやいた。

 「いっくん、うれしいよ・・・ママ、元気な赤ちゃん、よかったね」。いつものおうちで朝を迎える。赤ちゃんを胸に抱いて。

 「草野さん、おうちで産む意味があったわね」。助産師さんがささやいた。

 私はちいさくうなずいた。

産経新聞 平成29年12月16日 【夜明けのエッセー】より