運動会と祖母
     産経新聞 きのうきょう欄より

 大人になってよかったと思うことは、運動会に出なくていいことだ。小柄で体が弱く、ぼんやり気質の私は、体育が大の苦手。運動会の前日は、家族そろっての夕食でも、不安と緊張で食べ物がのどを通らない。布団に入り目を閉じても恐怖に震えるばかり。

 そんな孫娘の様子を察したのか、隣で横になっていた祖母が「こっちへおいで」という。布団をめくり笑いながら細い腕を広げている。涙がこぼれないようにギュッとくちびるをかんで、素早くその懐に滑り込んだ。

 私の頭をなでながら祖母は言う。

 「明日の駆けっこ、びりっかすでもいいんよ。恥ずかしいことなんかない。転ばずに最後まで走ってけがさえしなけりゃ、上等の一等賞」

 あれほど嫌だった運動会の当日の記憶はまるで残っていないが、前夜の祖母の優しい励ましは、半世紀たった今でも、強く鮮明によみがえる。

             北九州市小倉南区 鳴見はるみ 56 主婦