「どういたしまして」 産経新聞 朝晴れエッセーより
     「どういたしまして」
                    小関久子(91歳)                                
                    川崎市麻生区

 ようやく書き終えた手紙を出しに、ポストまで行こうと玄関を出た。風の少し寒い土曜日の午後だった。

 ポストまで、さほど遠くないが、バス通りの横断歩道を渡らなければならない。

 足が悪く、杖を持つ高齢の身には、転ばないよう緊張の連続である。

 ようやく渡り終え、ポストの前まで来たとき、一人の少年が向こうから走ってきた。

 小学1,2年生くらいだろうか。片手に白い封筒を持っている。

 ポストの前の少年、その後ろに私は立ち、手さげ袋に入れてきた手紙を取り出そうと身を屈めていたとき、少年が投函したであろう微かな音が聞こえた。

 手さげから取り出した手紙を私も入れようと、顔を上げて驚いてしまった。

 その少年は、ポストの横にぴったりと体を寄せ、無言のまま私をじーっと見ている。

 一瞬えっと思ったが、目をこらすと、少年はポストの郵便差し入れ口を、小さな手で押さえ、手紙を入れ易いよう、開けていてくれたのだ。

 何ということだろう。年端もゆかない、見知らぬ少年のこの思いやり、じーんと熱いものがこみ上げてきた。

 「ご親切にありがとう」

 「どういたしまして」
 
 そのひと言を残し、少年は、さーっと走って行ってしまった。

                        令和2年4月9日(木)